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クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)は、副腎皮質ホルモンの過剰分泌によりおこる病気です。
副腎ってなに?
副腎は、腎臓の両側に位置する重要な臓器です。副腎は、複数のホルモンを分泌し、これらは体の多くの機能に影響を及ぼします。副腎の一部である副腎皮質は、コルチゾールなどのホルモンを生成します。
コルチゾールの役割とは?
コルチゾールは、糖分やミネラルの代謝、免疫反応、ストレスへの対応など、体の健康維持に不可欠なホルモンです。このコルチゾールの分泌は、ACTH(下垂体から分泌されるホルモン)によって調節されます。
脳の下垂体はコルチゾールの調節機構
下垂体は、血液中のコルチゾール濃度を監視し、必要に応じてACTHの分泌を調整して、コルチゾールの濃度を適切に保ちます。コルチゾール濃度が高い場合、下垂体はACTHの分泌を抑え、逆に低い場合は増やします。
クッシング症候群の3つの原因
クッシング症候群は、血液中のコルチゾール濃度が過剰になることで発症します。主な原因は以下の3つです。
下垂体の腫瘍(下垂体性クッシング症候群)
下垂体の腫瘍がACTHを過剰に分泌することで、副腎皮質がコルチゾールを過剰に生成します。
5歳以上の犬(特に8歳以上)に多く見られ、雌犬にやや多いですが、特定の犬種に限定されることはありません。
副腎の腫瘍(副腎性クッシング症候群)
副腎自体の腫瘍が原因で、腫瘍がコルチゾールを過剰に分泌します。高齢の犬に発生しやすく、日本ではシーズー犬に好発する傾向があります。
医原性クッシング症候群
コルチゾール様作用を持つ薬剤(例:プレドニゾロン)の使用により、クッシング症候群と類似した症状が現れます。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)の症状
一般的な症状
- 水の飲用量と尿量の増加
- 筋肉の減少
- 脂肪の蓄積
- お腹の膨張(筋肉の減少と肝臓腫大によって起こります)
皮膚の問題
- 皮膚が薄くなる
- 毛が薄くなる
- 毛の脱落
- 皮膚感染症の治りにくさ、石灰沈着
呼吸の変化
呼吸が早くなることもあります。
下垂体の腫瘍による神経症状
- 元気がない
- 認知症のような症状がみられる
- 同じ方向への回転行動
- 視力障害
副腎の腫瘍が原因の症状
- 大血管の出血
- 塞栓症
- 突然死
さまざまな合併症
クッシング症候群は、糖尿病、高血圧、膵炎、皮膚や膀胱の感染症、血栓症などの合併症を引きおこすことがあります。この場合の糖尿病は、インスリンの治療効果が芳しくないことが多く、治療コントロールに苦慮することがあります。また、血栓症はかなり重篤な状態の悪化を引き起こすことが多く、命に関わることも少なくありません。
クッシング症候群の診断方法
疑わしい症状がみられた場合、以下の手順で診断が進められます。
初期検査
身体検査、血液検査、尿検査、X線検査、超音波検査など
初期検査でクッシング症候群の疑いがある場合にはさらに詳しく検査
副腎皮質機能亢進症の診断には、ACTH刺激試験やデキサメサゾン抑制試験などの特殊な血液検査、尿中コルチゾールクレアチニン比の検査が用いられます。
クッシング症候群のタイプの特定
診断が確定した後、下垂体性か副腎性かを区別するための検査をおこないます。
下垂体性 | 脳のCT検査やMRI検査 |
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副腎性 | 詳細な超音波検査、必要に応じて胸部腹部のCT検査 |
クッシング症候群の治療と予後
クッシング症候群の治療は、症状を取り除き、合併症のリスクを減らすことを目的としています。治療法は原因によって異なります。
下垂体の腫瘍による場合
外科手術 | 下垂体の腫瘍を除去しますが、完治の可能性はあるもののリスクが伴います。 |
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放射線治療 | 放射線を用いて腫瘍を縮小させます。 |
内科治療 | コルチゾールの生成を抑制する薬を使用します。完治はしませんが、症状を緩和できます。ただし、副作用として副腎皮質機能低下症を引きおこす危険があります。近年、治療薬の投与により下垂体に刺激が加わり神経症状を呈することがある(ネルソン症候群)ため、治療モニターは継続して実施する必要があります。 |
副腎の腫瘍が原因の場合
外科手術 | 転移がない場合、副腎の腫瘍を取り除く手術をおこないます。 |
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内科治療 | 症状緩和のために選択されることもありますが、効果には限界があります。 |
医原性クッシング症候群の場合
原因となる薬の減量を進めますが、副作用に注意し、急激な減量は避けます。
クッシング症候群を診断された場合の予後
内科治療の場合
通常は生涯にわたる投薬が必要で、薬の量は定期的に調整されます。合併症のリスクにも注意が必要です。
下垂体の腫瘍による場合
治療方法による生存期間の差はなく、適切な治療で3年生存率は60%以上が期待できます。下垂体のサイズや併発する疾患が予後に影響します。
副腎の腫瘍が原因の場合
外科手術による完全な摘出が可能であれば予後は良好です。内科治療では慎重な薬の調整が必要です。
医原性クッシング症候群の場合
原因薬の減量により症状が改善されますが、元の病気が再発または悪化する可能性もあるため、元の病気の状態も考慮しながら治療が進められます。